第49回代田賞選考結果
代田賞
・該当なし
代田賞奨励賞
・Kayo Takumi
『The effect of acupuncture on exercise capacity in patients with COPD is mediated by improvements of dyspnea and leg fatigue: a causal mediation analysis using data from a randomized controlled trial』
Takumi Kayo, Masao Suzuki, Tadamichi Mitsuma, Fumihiko Fukuda
(BMC Complementary Medicine and Therapies. 2024; 24: 44.)
・Minakawa Yoichi
『Clinical effectiveness of trigger point acupuncture on chronic neck and shoulder pain (katakori) with work productivity loss in office workers: a randomized clinical trial』
Yoichi Minakawa, Shogo Miyazaki, Hideaki Waki, Yoshiko Akimoto, Kazunori Itoh
(Journal of occupational health. 2024 Jan 4;66(1).)
第49回代田賞選考評
2025年8月11日(月・祝)午後1時から、大阪・森ノ宮医療学園専門学校において、2019年以来初めて、対面が中心の選考委員会を開催した。7名の選考委員のうち、吉川信、佐藤正人、鈴木雅雄、東郷俊宏、若山育郎(委員長)の5名は現地出席、形井秀一、山下仁の2名はオンライン出席した。
応募論文は2編、代田賞選考基準に基づき事務局が検索して選考対象に加えた論文は9編、合計で11編(日本語8編、英語3編)が審査対象となった。厳正な審査の結果、代田賞に該当する論文はなかったが、Kayoらの論文、Minakawaらの論文をそれぞれ代田賞奨励賞とすることを決議した。
Kayoらの論文は、第37回代田賞(2013年)を受賞したSuzukiらの論文 ”A randomized, placebo-controlled trial of acupuncture in patients with chronic obstructive pulmonary disease (COPD): The COPD-Acupuncture Trial (CAT). Arch Intern Med. 2012;172(11):878-86.” のsecondary analysisである。鍼治療によりCOPD患者の運動能力(6分間歩行)が改善することはSuzukiらの研究で示されたが、そのメカニズムはまだ明らかではない。今回の研究は、そのメカニズムが、下肢疲労と呼吸困難を介した効果かどうかを確認することが目的であった。著者らは因果媒介分析という手法を用いてデータ解析し、運動能力改善効果の4割は下肢疲労の改善で説明できること、9割は呼吸困難の改善で説明できること、また、その両方を改善することで効果の10割を説明できることを示した。本研究により、COPDの鍼臨床においては、呼吸困難と下肢疲労の軽減に重点を置くことが重要であることがわかり、臨床家に非常に有益な示唆を与える論文であると判断した。一方、Secondary analysisである点、下肢疲労がSuzukiらの元論文では評価項目になっていない点などについて委員から指摘があったが、本論文の臨床的な有用性を評価し奨励賞を授与することを決議した。なお、鈴木委員は共著者であるため、代田賞選考基準に則り、本論文の評価は行わず、また、選考議決にも関与しなかったことを追記する。
Minakawaらの論文は、肩こりを有する女性労働者を対象としたランダム化比較試験(RCT)である。対象をトリガーポイント鍼治療群と無治療群に割り付け、主要評価項目をWHO-HPQ(health and work performance questionnaire)の相対的プレゼンティーイズムスコア(同じような仕事をしている同僚に比較した場合の生産性スコア)、副次評価項目を絶対的プレゼンティーイズムスコア(自身の生産性スコア)とアブセンティーイズムスコア(欠勤日数)とした。また、相対的プレゼンティーイズムスコアを用いて労働生産性の損失を金銭換算し、鍼治療介入により無治療に比較して年間75万円損失が少なかったと結論づけた。委員からは、1)肩こりに関しては、生産性以前に鍼治療効果に関する臨床研究がまず必要である、2)対照群が無治療でありプラセボ効果が考慮されていない、3)対照群での脱落が鍼治療群よりも多かった理由が考察されていない、4)サンプルサイズについては、考察で事後に計算したと記載されているが事前には計算されていない、などの指摘があった。しかしながら、鍼治療の労働生産性に対する効果は今後の鍼灸界にとって重要なテーマであり、さらに研究を進めていく必要があるとの観点から奨励賞を授与することを決議した。
今回審査対象となった論文のうち、残念ながら受賞には至らなかったが、英語論文1編、日本語論文2編も興味深い研究であった。しかし、研究の質や結果の重要性といった面で改善の余地があり、さらなる発展が期待される。
代田賞の選考対象には、「鍼灸学生による研究」も入っている。事務局で検索した結果、学生(大学院生、教員養成学科学生は除く)による6論文が抽出された。学生による研究論文は、日常の学びの傍ら、教員に指導を受けながら研究を遂行、論文を執筆されたと推察される。学生がRCTなどの臨床研究を遂行する困難さは容易に想像できるが、できれば今後はまず研究プロトコールを作成し、施設の倫理審査委員会の承認を受けるなど一定の基準を遵守していただければと考える。今回の6論文のうち、倫理審査委員会の承認を受けていたのは1編のみであった。また、すべての論文で臨床試験登録がされていなかった。さらに言えば、サンプルサイズの計算、有害事象の報告、ベースラインデータやフローチャートの提示なども今後の課題である。その一方で、リサーチクエスチョンはシンプルながらも興味深い研究で、学生にとって有益と考えられるものも多かった。
代田賞選考委員会
代田賞運営事務局