代田賞
・該当なし
代田賞奨励賞
・Shoichi Komine,Ikuru Miura
『Effect of Electroacupuncture on Delayed-Onset Muscle Soreness Induced by Eccentric Exercise in Young Untrained Men: Randomized Controlled Trial』(Am J Phys Med Rehabil. 2025;104(8):693-701. doi: 10.1097/PHM.0000000000002698.)
第50回代田賞選考評
2026年8月13日(日)午後1時から3時30分までオンラインにて選考委員会を開催した。7名の選考委員のうち、吉川信、佐藤正人、鈴木雅雄、山下仁、若山育郎(委員長)の5名が出席、当日出席が叶わなかった形井秀一、東郷俊宏の2名の委員については事前の評価提出があり、それを踏まえて検討した。
応募論文は2編(自薦1編、他薦1編:自薦論文は応募基準を満たさなかったため取下げ)、代田賞選考基準に基づき事務局が検索して選考対象に加えた論文は16編、合計17編(日本語15編、英語2編)が審査対象となった。厳正な審査の結果、代田賞に該当する論文はなかったが、Komine・Miuraらの論文を代田賞奨励賞とすることを決議した。
Komine・Miuraらは、運動誘発性の遅発性筋肉痛(delayed-onset muscle soreness, DOMS)に対し、健常人19名を同側局所への鍼通電群(9名)と対側への鍼通電群(10名)にランダムに割り付け、運動の7日前から4日後まで各介入を実施して、①筋伸張時の圧痛、②肘関節可動域、③筋損傷マーカー、④酸化ストレスマーカー、⑤筋由来cfDNAなどを評価した。その結果、同側鍼通電群は対側鍼通電群と比較して圧痛が有意に軽減し、酸化ストレスも抑制された。本論文は、対側刺激(いわゆる巨刺法)よりも同側への鍼通電が有効であることを示すものであり、DOMSそのものに対する鍼通電の有効性を即断することはできないものの、DOMSに対する鍼治療の作用メカニズムを考察する上で貴重な知見であると評価した。
一方、運動の1週間前から毎日連続して予防的に鍼通電を行うプロトコルは臨床上あまり現実的ではない点や、対象者が19名と少数のうえサンプルサイズ設計がなされていない点など、改善の余地があるとの指摘もなされた。今後は、対照群の選定や鍼通電の介入時期(臨床応用が可能な予防的介入および治療的介入)に工夫を加えることで、本研究のさらなる発展が期待できると考え、代田賞奨励賞を授与することとした。
なお、論文本文には「ヘルシンキ宣言に則って研究を行った」との記載がある。同宣言は「人を対象とする医学研究の倫理的原則」を定めたものであり、研究倫理委員会の承認や被験者の自由意思に基づくインフォームド・コンセントの取得が不可欠である。加えて、「研究登録、公表および結果の普及」の項目において、研究実施前に一般にアクセス可能なデータベースへ登録されることを求めている。したがって、今後の研究においては事前登録(臨床試験登録)と登録ID記載の徹底を強く望む。
今回の選考対象となった論文の研究デザインを概観すると、ランダム化比較試験(RCT)を中心に、ランダム化クロスオーバー試験も散見された。また、比較試験に回帰分析を組み合わせた手法を用いた論文のほか、本年度から選考対象に加わった観察研究の応募もあり、全体として多様な研究デザインが見られた。
このうちクロスオーバー試験は、必要被験者数を抑えられる点や、同一被験者内で時期を変えて比較することにより個体差(被験者間分散)を低減して介入効果を評価しやすいという大きな利点がある。一方で、持ち越し効果(キャリーオーバー効果)や順序効果への適切な対応が不可欠となる。特にシャム鍼を対照とする場合、同一被験者が双方の介入を受けることで盲検化が維持できなくなるリスクがあり、必ずしも適切なデザインとは言えない場合がある。今後はクロスオーバー試験の利点のみならず留意点も考慮し、並行群間比較試験とクロスオーバー試験のいずれが課題に対して適切かを慎重に吟味されたい。
代田賞の選考対象には「鍼灸学生による研究」も含まれている。事務局の検索により、今回も学生(大学院生および教員養成学科生を除く)を著者とする7編の論文が抽出されたが、そのうち研究倫理審査の承認を得ていたことを明記していたものは2編にとどまった。学業のかたわら指導教員のもと、研究計画の立案、被検者の募集、鍼灸介入、評価という一連のプロセスを遂行することは多大な労力を要する。しかし、ヘルシンキ宣言の理念を理解し、人を対象とする研究における倫理指針を学ぶことは、研究手続きそのものを遂行することと同等に極めて重要である。指導教員の皆様におかれては、学生に対してヘルシンキ宣言および研究倫理の重要性を改めて認識させるとともに、事前に適切な倫理審査委員会の承認を得た上で研究を実施するようご指導いただくことを切に願う。なお、学生ならではの自由な発想に基づくリサーチクエスチョンに取り組んだ興味深い論文も見られたことを付言しておく。
代田賞選考委員会
代田賞選考委員会事務局